ホテル単位の基本戦略を設定する

どのような方法で利益を生み出し企業を維持発展させていくかは非常に重要なテーマです。その方法は「戦略」という言葉で表現されます。
※ 戦略や戦術という「軍事用語」をビジネスに当てはめるのに否定的な見解もありますが、広く普及している言葉でまだ置き換わるものがないため、そのまま使用します。

企業としての大きな戦略

経営学の教科書と言える『競争の戦略』(マイケル・E・ポーター、ダイヤモンド社)によれば企業の基本戦略は「コストリーダーシップ」「差別化」「集中」の三つがあるとされます。

  • コストリーダーシップ
    • 同業他社に比べて低いコストで地位を確立する戦略。
    • コストが低いことで、同業他社と同じ料金で販売すれば高い利益率が得られ、同業他社より安価で販売すれば高いマーケットシェアが得られる。
  • 差別化
    • 際立った特徴を持つ商品やサービスを開発し、ブランドと顧客ロイヤリティを確立する戦略。
  • 集中
    • 特定のマーケットセグメントにターゲットを絞り込む戦略。

 

ホテルごとの戦略構築

上記の戦略が企業の戦略だとすると、実際にホテルの現場で働く人々に求められる戦略は、企業の戦略を支えホテル毎(あるいは部門毎)の利益を生み出す「下位の戦略」と言えるものです。
チェーンホテルとしての戦略と、単体ホテルの戦略と考えてみると関係性がわかりやすいかと思います。

原則として下位の戦略は上位の戦略と矛盾してはならず、上位の戦略を支えるものでなくてはなりません。戦略は階層を持っていると考える方が良いでしょう。

ここではそのホテル毎の戦略を考えてみましょう。

 

ホテルの産業特性とホテルの基本戦略

ホテルの産業としての特性は「売れる数に限りがあり、上限に達しやすい」点に集約されます。

利益を計算式で考えると以下の通りです。

利益 = 売り上げ(単価 × 数量)− 費用

しかしホテルでは売れる数(客室数、レストランのテーブル数、宴会場の会場数と時間)に限りがあります。そして売れる数の上限には需要が集中する日などにあっさりと到達してしまいます。

そうなると、利益を生み出すには単価を上げるか費用を落とすかの選択になります。

理論的には「費用を落とす」ことが戦略となり得るのですが、現実には単体ホテルや単体部門には「売上上昇」を求められることが多く、かつ抜本的なコスト優位を保つ為にはハウステンボスの「変なホテル」に代表されるような大きな構造改革や技術革新が必要となります。
※ だからこそ企業戦略の一つとしてコストリーダーシップが挙げられる
※ 業界標準程度のコスト削減は構造改革や技術革新・大きな投資なく実現可能

その為、一般的なホテルで戦略を考える場合には、まず「単価を取るか」「数量を取るか」を選択してもらうことを推奨しています。

この、「単価上昇」「数量獲得」を選択することを(ホテルの)基本戦略と言います

これ以上の数量獲得が難しい場合、単価を上げるしか売上を増加させる手段がありません。稼働率が100%に達する場合、GMが取ることができる戦略は単価上昇ということになります。
これが企業の戦略だと「稼働率が高い地域に新規開業」という選択肢もあり得ます。

単価上昇と数量獲得は、同時に実施することが非常に難しい。
なぜかといえば、相互に矛盾することが多い戦略だからです。

一番わかりやすいのが「安価な団体を受注するかどうか」でしょう。
まだ販売できる数に余裕がある=数量獲得戦略が基本 場合、安価な団体を受注する方が売上が増加します。
一方で販売できる数の上限に達している=単価上昇戦略が基本 場合、安価な団体を受注してしまうと、より高単価なお客様を断ることとなり、結果売上は減少してしまいます。

ですから、基本的に「単価上昇」と「数量獲得」の戦略は同時進行できないと考える方が良いのです。
※ 戦略実施の結果「単価と数量の両方が上昇した」ということはあり得る

これは宿泊部門にも宴会部門にもレストラン部門にも言えることです。

 

単価上昇と数量獲得を切り分ける目安

宿泊部門の場合、
年間の客室稼働率が80%を超えると「単価上昇」戦略をとることを推奨しています。

どうしても需要が高くならない日曜・月曜の存在がある為、平均の稼働率が80%程度でも満室になる日が多くなってくるからです。

リゾートホテルのように需要の波が大きい場合には、月単位の稼働率から判断して、基本戦略を切り替える方が良いでしょう。

また、稼働率80%はあくまでも「客室数の制限により販売できる数の上限に達している」状態で、「マーケットサイズ(市場規模)の問題から販売できる数の上限に達している」という状態もあり得ます。
この例は日曜日や、人気がない行楽地に建てたリゾートホテルなどが該当します。
この場合であっても数量獲得を狙うことも可能ではありますが、難易度は高いでしょう。

宴会部門では、稼働率の計算が一般化しておらず、かつ現在主流となりつつある稼働率計算も当方の知る限りでは宿泊同様の水準までには使いにくいことがわかっています。
可能であれば、需要が集中する曜日を特定し、その曜日だけでもどの会場にどの宴会種別を取ることができるか一度試算してみることをお薦めします。

販売数の上限という意識がない場合、土曜日には婚礼と季節宴会が集中し実施出来る会場がないにもかかわらず、予算時点で婚礼も季節宴会も件数を増やす(つまり数量獲得戦略をとる)選択をしている事例がみられます。

レストランの場合も同様で、販売数の上限に達する場合には単価上昇戦略をとる必要が出てきます。
しかし、レストランで使用数量の目安として扱われる「回転数」はテーブル単位ではなく席数単位が一般的であることと、そもそも回転数では「販売の上限に対してどの程度まで到達しているか」という共通理解が得にくいという問題があります。

(例:ランチの回転数が1.5だとして、現場感覚では上限と感じるが、GMなど他部門長からは上限かどうか判断しずらい)

そういう意味では、レストランも稼働率を計算した方が良いと思われますが、この分野はまだ共通認識が持てていない状況です。

 

 

まとめ

  • 戦略は「企業としての戦略」「ホテルとしての戦略」に分けて考える
  • ホテルとしての戦略は販売できる数の上限を意識する
    • 数量獲得戦略
    • 単価上昇戦略
  • 宿泊部門では戦略切り分けの目安として客室稼働率80%を推奨
  • 宴会部門・レストラン部門での目安はまだ未整備
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